ニートが読む―ゆうこす著『SNSで夢を叶える ニートだった私の人生を変えた発信力の育て方』
さて。
今、ものすごく活躍されてる”ゆうこす”こと菅本 裕子さん。
そのゆうこすさんが去年出版された『SNSで夢を叶える ニートだった私の人生を変えた発信力の育て方』という本。
これ、SNSの上手な使い方を解説した本として高い評価を受けてるようなんです。
それで読んでみました。
その最初の感想。
これは、優れたニート論である!(byわたし)
イヤですねえ、もう頭の中ニートのことでいっぱい。
でもまあ、本のタイトルにもちゃんと「ニートだった私」っていう文言が入ってるわけで、私の第一印象もあながち間違ってはいないとは思うんですよね。
というわけで以下ではこの本に対して、ニートの視点から感想を述べてみようと思います。
1.全体の流れ
まず目次を見てみると、
第1章 叶わなかった初恋~ほろ苦いSNSとの出会い~
第2章 「好き」と素直に言えるまで~フォロワーを増やすための試行錯誤~
第3章 片思いが恋に変わった瞬間~Twitterは共感のメディア~
第4章 幸せいっぱいの誕生日~Instagramで「自己プロデュース」~
第5章 職業、モテクリエイター~Youtubeでファン層が広がる~
第6章 ありのままの私を愛してもらう~ブログで綴る本当の気持ち~
となっています。
全体の流れはこんな感じ。
2012年8月にHKT48を脱退したゆうこすさん。この脱退の後、彼女は、アイドルとして、あるいは日本社会に生きる人として、非常に苦しい時期を経験してきたのだった。だがそんな彼女も、今や10代20代の女性を中心に圧倒的な影響力を持つメガインフルエンサーとして活躍するまでになった。
この社会的な再浮上の物語の裏には、実はゆうこすさん自身がSNSへの熟練度を上げていく道筋があったのだった。
そういうストーリーを前提にしながら、ゆうこすさんが、過去の自分に起こった出来事、およびその時々のSNSの使い方を振り返っていく。そしてそれぞれの使い方のダメな点、また、それが徐々に改善していく様子。それらを具体的に解説していく。
だいたいそういう内容です。
そういうわけですから、特に第1,2章は、ゆうこすさんが社会的にも、SNS的にも苦戦している時期のことが語られます。
全体の流れは、SNSを通じた発信力が育っていくというストーリー。だから、初めのほうは、まだ発信の仕方がダメだったころの話、となるのは自然なことです。
そして、そのダメだったころのことよりも、改善していく後半の方こそが、この本の本題といえるでしょう。
でも、実は、ぼくとしてはむしろ前半の方が興味深かった。
そこでこの記事では、主に第1,2章に焦点を絞って感想を述べていきたいと思います。
その際、ある問いをもって読み解いていきます。
それは、
なぜゆうこすさんはニートをこじらせなかったのか、
です。
それでははじめます。
2.ゆうこすさんがニートになるまで
2012年8月、ゆうこすさんはHKT48を脱退します。これは、ネットのデマをそのまま報道されたことがきっかけだったそうです。
そんなふうに世間に誤解されたことを悔しく思ったゆうこすさんは、YouTubeに、自ら事の真相を語った動画を投稿することを思いつきます。
そしてその動画の中でツイッターのアカウントを発表します。
これは彼女曰く、「悔しさや怒りという”負の気持ち”」でしたことであり、それが”ゆうこす”のSNSデビューだっと振り返っています。
これにより、フォロワーは激増。しかしその大半がアンチや野次馬。ここからゆうこすさんは彼らとの長い戦いに巻き込まれていきます。
このころ彼女は普通の女子高生。それでも、落ちぶれたと思われたくないがために、本人曰く「ただ見栄をはるためだけに」リア充ぶりをアピールするツイートを繰り返したそうです。
しかしそんなツイートに対しても、アンチや野次馬のクソリプの嵐。自主開催するイベントも苦戦し、さらにはクソリプもエスカレートし、なにやら脅迫めいてくる。
そんな中、街でスカウトされたところから、料理アイドルという方向を目指し上京。料理の専門学校に入学。2014年3月に無事卒業し、資格もゲットする。
さあ料理アイドルになるぞ!と思ったものの、いっこうに料理本出版という話が来ない。それどころか、やれ、グラビアDVDをだせだの、地下アイドルのイベントに行けだの、どうも話が違う。それでゆうこすさんは自分が騙されたことを悟ります。
こんなことがあって、彼女は精神的に不安定になり、心配したご両親によって福岡の実家へ連れ戻されます。
こうして彼女はニートになってしまったのです。
3.ニート時代
この時期、さすがの彼女も精神的にかなり参ったようです。
LINEの友達登録もゼロにして、友達との連絡も絶っていました。 みんなが私をバカにしている気がして、人と関わるのが怖くなってしまったのです。
しかしそんなときでも彼女はツイッターの投稿だけは続けたそうです。
こんな状態になってまでも、「私は落ちぶれてない、不幸なんかじゃないんだ」とアピールするためです。そのためだけにSNSをやっていました。私って、本当に見栄っぱりですよね(笑)。
その投稿の内容は、クオリティの低い料理の画像、水着の自撮りなどで、これは、彼女曰く「方向性のブレた」ダメなツイートだったそうです。
そんな失意のニート生活に耐えられなくなった彼女は、ご両親に頼み込み、飛行機の片道切符代だけを出してもらい、再び上京。彼氏の家に転がり込みます。
4.ゆうこすさん的ニート体験を考える
このあたりから事態は少しづつ、少しづつ、好転していきます。
そして本の内容としても、ここからいよいよ本格的に、メガインフルエンサーとしてのゆうこすさんが誕生していく話に突入していき、それにともない、「正しい」SNS活用法もバシバシ語られ始めます。
どうぞみなさん、購入なさって、お読みになってください。
ためになって、しかも面白いです。
ですが僕はあえてここで立ち止まって、ネチネチと彼女のニート時代のことを考えたいと思います。
本によると、彼女が専門学校を卒業したのが2014年3月。
そこから料理アイドルを目指すもかなわず、福岡の実家に戻る。しかしニート生活に耐えられず上京したのが、なんと2014年10月。
その間、たったの7カ月。
早い、早すぎる!
考えてもみてくださいよ。
アイドルグループを脱退した女子高生がですよ、アンチにボコボコにたたかれて、再起をかけて上京するも、騙されてたと発覚する。
それで実家に連れ戻される。
ふつう立ち直れませんよ。
「もう私はつくづく人の世が嫌になりました。山にこもります。」
とかなんとかいって、結局山にこもらずに布団にもぐるみたいな。
それを彼女は、ツイッターでアンチと戦い続け、たったの7カ月で単身上京する。
しかもここから、
ネガティブな発信をするとネガティブなことに巻き込まれる。これからは好きなことだけ、ポジティブなことだけ発信しよう、
と思ったっていうんだから。
この辺が、彼女がそんじょそこらのニートと違うところですね。結局。
ニートや引きこもりが、ひきこもるってのは、いったい何から「ひいて」、どこに「こもる」のか。
それはやっぱり、人と人の関係性の中から、ってことなんでしょう。
人間、ほかの人々と一緒に社会生活を送ると、「自分から見た自分」としてだけ生きてるわけにいかなくて、「他人から見た自分」も引き受けなくちゃならない。要するに他人の視線にさらされて生きなきゃならない。そうすると、思いもよらないイザコザに巻き込まれたりもする。
そういうときに、イヤになっちゃわずに、「他人から見た自分」を放棄せずに、踏みとどまって、戦えるかどうか。
そこがひきこもるか、引きこもらないかの分かれ目なんですね、きっと。
そういう意味で、彼女は闘いを放棄しなかったから、たった七カ月で、次のステージに進めたのだと思います。
5.『SNSで夢を叶える ニートだった私の人生を変えた発信力の育て方』はなぜ、優れたニート論なのか。
ゆうこすさんは、もう、完全に引きこもってしまっても仕方ないところまで追い詰められたときにも、ツイッターだけは手放さなかった。
そしてツイッター上で、「見栄をはって」自分のことを世間に向かって発信することはやめなかった。
それが、たとえSNSの達人になった彼女の目から見てダメなやり方であったとしても。
この、追い込まれた状況でも、「ひかず」、外に外に自分のエネルギーを向けていく姿勢。これがニートをこじらせないために必要な姿勢なんだと思うんです。
しかも、その姿勢をもって戦う場には、スマホという身近なものからアクセスできる。
この、「戦う姿勢」と「打って出る戦場の近さ」を示してくれているところが、この本が、優れたニート論であるゆえんだと思うのです。
ニートが「更生し」再び社会に出ていくための道は、もちろん現実の支援機関であり、また、その先にある、現実の職場にあるでしょう。
しかし、そこに至る道を限られたものにせず、いかに多様なものにしていくかということもまた重要な問題だと言えます。
その意味で、この本が示してくれている事実。
すなわち、ニートの前には、膨大な数のSNSユーザーが織りなす、広大な世界が広がっている、という事実。
これは、今まであまり指摘されたことのない新たな視点であるように思われるのです。
もちろん、皆が皆、ゆうこすさんのようなシンデレラストーリーを歩めるわけはありません。
というか、歩めるのは、多く見積もってもごく僅かでしょう。
でも、ひょっとしたら、言葉だけなら、こんなことがいえるかもしれません。
ニート脱出のカギは発信力の強化にあり!
と。